ネットデット計算の基礎

この記事の目的

FDD(Finance Due Diligence、財務デューデリジェンス)の一環で計算するネットデット。これは一体何のために、どのように計算するのかについて基本的な考え方を解説する

目次

ネットデットとは

株主価値を出すための部品

FDDの目的はざっくり言えばVAL(Valuation、バリュエーション)の基礎となる要素を計算することにある。

つまり、企業価値を算定するための部品を作ることだ。

その一つに「ネットデット」がある。

EBITDAをもとに、DCF法やマルチプル法により事業価値を算出した後、ネットデットを控除することにより、株主価値を計算することができる。

その株主価値をさらに調整することで実際の買取価格が決定する。

何がネットで何がデット?

それでは「ネットデット」とは何か。

カタカナを英語に戻すと、Net Debt、つまり純有利子負債のことである。「純」というのは、相殺後という意味であり、これは「キャッシュ」と「デット」を相殺した後の「デット」という意味である。

そして、キャッシュとデットには、それぞれまさにキャッシュ・デットというものと、これはキャッシュ・デットと考えるべきだよね、というものがある。

その後者を「キャッシュライクアイテム」、「デットライクアイテム」と呼ぶ。

つまり、絵にしてみるとこういうことだ。

後輩

キャッシュとデットの純額(ネット)で残ったデットだから、ネットデットなんスね!

山田さん

え、じゃあネットしたらキャッシュの方が大きかったらどうなるの!?ネットキャッシュ??

そう、その通りでキャッシュの方が多い場合は「ネットキャッシュ」となるが、一般的にはデットが残ることが多いので、「ネットデットを計算する」ということが多い。

項目の中身って何があるの?

ざっくり下記のようなイメージだ。例示については理解のためにほんの一部だけ記載している。

項目概要
デット有利子負債借入金、社債
デットライクアイテム運転資本でない負債資産除去債務、退職給付引当金
キャッシュ余剰現金現金預金(最低必要額除く)
キャッシュライクアイテム運転資本でない資産純投資目的の有価証券、遊休不動産

営業用の資産・負債は運転資本に整理されるので、概ね営業用の資産・負債以外の資産・負債と考えてくれれば良い。

なお、事業価値計算とネットデット計算は表裏一体なので、どちらに含めるべきかという議論は必ずしも正解はない(結果どちらに入れても同じになる)ので、あくまでも一般論として聞いてほしい。

借入金や社債は返済日・償還日が来ればキャッシュアウトするということでまさに有利子負債なのでデット。

資産除去債務はいずれ除却費用がかかることが現時点でわかっているのから有利子負債に準じた扱いでデットライクアイテム。

山田さん

退職給付引当金は、見合いの退職給付費用は営業費用だからEBITDAで調整するんじゃないの!?

一見そのように見えるが、退職給付引当金残高として計上されている分は過去の営業費用であるので、一般的にはネットデットに含める。

もちろん、これから先に発生する退職給付引当金見合いの退職給付引当金はEBITDAに含まれることになる。

現金預金は営業上最低限必要な部分(ミニマムキャッシュ)を除いた余剰現金がキャッシュ。

純投資(値上がり・配当を期待して保有する)目的の有価証券や遊休不動産は売却すれば時価分の現預金になるのでキャッシュに準じた扱いでキャッシュライクアイテム。

大体このようなイメージだ。

分類してみよう

では、下記貸借対象表(一部)ではネットデットはいくらになるだろうか。

勘定科目金額(百万円)
買掛金100
短期借入金200
設備未払金100
営業未払金100
未払法人税100
退職給付引当金200
長期借入金1,000
現預金300
-ミニマムキャッシュ100
売掛金200
棚卸資産100
純投資目的の投資有価証券500
子会社株式200
遊休固定資産100
営業不動産にかかる敷金100

っこれについて、例えば以下のような分類になる。

勘定科目金額(百万円)分類
買掛金100運転資本
短期借入金200ネットデット
設備未払金100設備投資
営業未払金100運転資本
未払法人税100ネットデット
退職給付引当金200ネットデット
長期借入金1,000ネットデット
現預金300ネットデット
-ミニマムキャッシュ100ネットデット
売掛金200運転資本
棚卸資産100運転資本
純投資目的の投資有価証券500ネットデット
子会社株式200その他
遊休固定資産100ネットデット
営業不動産にかかる敷金100その他

短期借入金200
未払法人税100
退職給付引当金200
長期借入金1,000
余剰現預金△200(300-100=200)
純投資目的の投資有価証券△500
遊休固定資産△100
差引700

後輩

何となくわかったっスけど、これって運転資本と設備投資の理解もあってこそ分類できるって感じっスね・・・

その通りで、FCF計算とネットデット計算は全部で1つなので、それぞれの項目の理解が揃ってはじめて計算が可能となる。

まとめ

今回はネットデットの概要と基本的な構造について見てきた。

簡単に言えばFCF計算の枠外の資産負債の純額計算というところで、FCFをどのように定義するかで若干範囲は変わってくるが、どのように計算しても結果は同じになる。

詳しく勉強したい場合は専門書を読んでみることを勧める。

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