この記事の目的
分配可能額の計算構造をざっくりと理解し、何をしているのかを理解しよう!
みんなわからない分配可能額
上場会社が分配可能額を超えて剰余金の配当や自己株式の取得をしてしまったという、嘘のようで本当の話がある。しかもこれは1件や2件ではない。
え?経理部は計算していなかったの?取締役会も見逃したの?監査役も監査法人も見つけられなかったの?と思うところだが、つまりはそういうことだ。
しかし、見逃してしまうのもある意味仕方がないというか、とても間違いやすい論点なのである。
まず、会社法の条文を読んでも、何も入ってこないレベルに理解できない。
きっと当事者全員が会社法関連の書籍を開きはしたけれどもそのままそっと閉じ、誰かが見ているだろうという期待のもとに目をつぶってしまい、しばしば事故が起こってしまっているのであろう。
初見で枝葉を見るとやる気を失うので、まずは計算構造をざっくりと理解して、全体像を把握できるようになろう。
分配可能額とは
会社法では債権者保護のため、会社が剰余金の配当や自己株式の取得等を行うときに株主に対して交付する金銭等の総額が超えてはいけないラインとして分配可能額を定めている。
そして、残念なことに分配可能額は一発で算出することができず、以下のプロセスで算出することになる。
- 期末日の剰余金の額を算出する
- 分配時点での剰余金の額を算出する
- 分配可能額を算出する
何がしたいのかと言うと、決算をした後に実際に分配するまでに剰余金の額が動くので、決算の剰余金をスタートにしてその後の増減を反映して分配可能額を計算するということだ。
なお、会社法第446条に剰余金の額の定めがあり、条文は1号で期末日の剰余金について定めていて、2号以降で期末日以降の剰余金変動について定めていて、全部合わせて分配時点の剰余金になるという構造になっている。
①期末日の剰余金の額の算定
剰余金の金額なんて純資産の部に書いてあるじゃんと思うかもしれないが、そんなに単純ではない。会社法第446条1号に記載された剰余金のみがここでいう剰余金であるからだ。
会社法第446条1号に定める期末日剰余金は以下の通りだ。
+資産の額
+自己株式の帳簿価額の合計額
△負債の額
△資本金及び準備金の額の合計額
△法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
=決算日の剰余金の額
見た目は非常に難解であるが、控除法ではなく加算法で表すと
期末日の剰余金の額=その他資本剰余金+その他利益剰余金
ということになる。ここまでは実はとても簡単である。
なお、お気づきの通り資本準備金や利益準備金は含まれない。
会計基準上は資本剰余金に資本準備金は含まれ、利益剰余金に利益準備金は含まれるが、ここでいう剰余金にはあたらないということだ。
一方、その他利益剰余金に含まれる任意積立金は対象になるので、うっかり間違えないように注意しよう。
②分配時の剰余金の額の算定
次に、決算日の剰余金の額に決算日以降の剰余金の変動を反映する。
会社法第446条2号以降を並べると以下のとおりである。
+期末日の剰余金の額(①で計算した額)
±期末日後の自己株式処分差損益
+期末日後の減資差益
+期末日後の準備金減少差益
△期末日後に消却した自己株式の帳簿価額
△期末日後の剰余金の配当額等
△法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
=分配時の剰余金の額
もちろん必ずこれらのすべての項目が計算されるわけではなく、該当があれば計算に含まれるということになる。
項目は多いが、期末日の剰余金が動いてしまった部分を調整しているに過ぎないという理解があれば、それほど難しくはない。
ところで、剰余金の増減にはそもそも期間損益こそ反映するべきなんじゃないの?と思った方もいるかもしれないが、それは分配可能額の算定時に反映することができる。
③分配可能額の算定
ようやく分配可能額の算定だ。
分配可能額は会社法第461条に定められている。
前述のとおり、ここでは期間損益を計算に含めることができる。
「できる」と言っているのは、臨時決算を行い、臨時計算書類を作成した場合にのみ反映可能となるからである。
+分配時の剰余金の額(②で計算した額)
±臨時決算日までの損益
±臨時決算日までに処分した自己株式の対価
△分配時の自己株式の帳簿価額
△期末日後に処分した自己株式の対価
△法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
=分配可能額
ここでいう法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額が厄介で、主な項目として「のれん等調整額」がある。
のれん等調整額=期末日ののれんの金額/2+繰延資産
資本等金額=資本金額+準備金額
のれん等調整額と資本等金額を比べて一定の条件に該当した場合は一定額を分配可能額から控除する。
これは、のれんや繰延資産という処分価値のない資産が一定規模を超えていた場合に保守的に分配可能額を調整しようという配慮であろう。
この他にもいくつか調整項目があるが、本質ではないため今回は割愛する。
結局どういうことなの?
色々な枝葉がついてわかりにくくなっているが、分配可能額は主にその他資本剰余金とその他利益剰余金から構成されており、それは期末日の剰余金から期末日後の変動とその他の調整を行って計算するというのが大枠の理解となる。
公認会計士試験の受験勉強ではのれん等調整額の計算などやたらと細かい調整ばかりが狙われるが、実務ではまずは制度の主旨やベースとなる概算値を意識して計算を詰めて行けば良いだろう。
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