税率差異調整(税率差異分析)が必要な理由
税引前当期純利益または税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率の間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳の注記が必要になる(税効果会計基準第四2)。
そんなわけない。
法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差が法定実効税率の100分の5以下である場合には、当該注記を省略することができる(連結財務諸表規則第15条の5第3、財務諸表規則第8条の12第3項)と定められている。
そう。
初見だと税率差異調整と言われても何をやったら良いのかすらよくわからないので、具体例を見てみよう。
具体例
法定実効税率が30%だったが、税金費用(法人税、住民税及び事業税+法人税等調整額)の税引前当期純利益(税前利益)に対する割合(法人税等負担率)が34%と税率差異が生じており、原因となっている項目は、交際費と住民税均等割だという場合について検討してみよう。
法定実効税率は30%であるので、本来であればこの会社の税金費用は税前利益10,000に対して30%を乗じた3,000となるはずだ。
それにもかかわらず、税金費用が3,400になっているので、その理由はなんでしょう?という、差異の発生要因の内訳を示すのが税率差異調整だ。
調整項目を見てみよう
永久差異(交際費等)
交際費や寄付金等の損金不算入項目は「社外流出」項目となり、会計上は費用となっても、税務上損金となることはない。そのため、税前利益に実効税率を乗じた税額よりも税額を多く支払う要因になる。
だよね!
「一時差異」と「永久差異」があるので、まず「一時差異」について考えてみよう。
「一時差異」というのは、会計上費用・収益となるタイミングと、税務上損金・益金となるタイミングが違うだけの項目をいう。
だから「一時」差異なのだ。
例えば「固定資産の減損損失」については、減損損失計上時に税務上損金として認められていないが、減価償却を通じて若しくは固定資産の処分により税務上も損金として認識されることとなる。
将来税務上も損金として認められることから、将来の税金費用を減らす効果がある。
税金を減らす効果がある=資産ということで「繰延税金資産」として計上されるのである。
一方で「永久差異」というのは、会計上は費用・収益となるけれど、税務上は損金・益金となることのない項目だ。つまり、会計と税務でずっと解消されることのない差異となる。そのため、「永久差異」と呼ばれている。
例えば交際費については、会計上100計上されていたとして、全額不算入となれば、法人税申告書別表四にて100足し戻すことになる。
それにより、税務上は何も起きていないことになり、その分税金が増えることになる。
住民税均等割
住民税には「法人税割」と「均等割」があるが、「均等割」については、法人の利益の水準にかかわらず支払うことになるため、税前利益に実効税率を乗じた税額よりも税額を多く支払う要因になる。
税率差異を計算してみよう
では、それぞれの項目がどのように税率差となるのかを考えてみよう。
この事例の税率差異を項目別に表示すると下図のようになる。
ここで交際費・住民税均等割の税率への影響の与え方が異なることに注意しよう。
交際費については、交際費の金額に税率を乗じた金額が税額に影響を与える金額となるが、住民税均等割についてはそもそも「税額」である。
交際費については、会計上計上された交際費1,000が税務上否認されたので、税率を乗じた300分税金が増えることになるが、住民税均等割は利益の金額に関係なく税金そのものが100増えてしまうということになる。
経理担当者や監査法人の会計士でも意味がよくわからずに住民税均等割に税率を乗じた金額を税率差異調整に含めて「税率差を詰められない!」なんて言ってくることがあるので、ちゃんと意味を考えて計算しよう。
まとめ
会計上の利益の通りに税金費用が発生すれば、税前利益*法定実効税率=税金費用となる。それが税務上永久差異となったり、利益と関係なく税金が発生してくる等により税金費用の金額がズレると税率差になる。その内訳を開示するのが税率差異調整だ。
なので、税率差異調整と聞いたら、
と思っておこう。
オススメ書籍
監査法人・経理担当者で税金担当となったら大体読むのがこの本。
俺がいた監査法人では大体みんなコレを持っていた。
この1冊があれば殆どの問題は解決できる。
税率差異が詰められなくなったときに手元にあると心強い税率差異調整(税率差異分析)のバイブルだ。
コメント