キャッシュ・フロー計算書の概要と作り方のポイントを丁寧に解説してみた

これは貸借対照表、損益計算書の構造を理解した上でキャッシュ・フロー計算書について初めて勉強する人や実務担当者であるものの理屈を理解できていない人に向けた記事である。

山田さん

貸借対照表と損益計算書はわかりやすいけど、キャッシュフロー計算書は全然意味がわからない・・・

パイセン

まず、キャッシュ・フロー計算書な。

山田さん

うーん、どうでもいい。

目次

キャッシュ・フロー計算書をざっくり理解しよう

キャッシュ・フロー計算書(CS)は会社のキャッシュ、すなわち「現金(と現金と同じような性質のもの)」の動きを把握するために、「有価証券報告書」や「決算短信」において開示することが義務付けられている。

貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)は「見積り」を含む項目が存在するため、会計処理の方法や判断によって異なる場合があるが、キャッシュの動きは現実に即しているから有用だよね、という考え方もある。

そんな位置づけのCSであるが、計算構造がBSやPLに比べてわかりにくい。

というか、初見だと全然わからない

そして、実務で作っている人も監査している人も理屈がわかってない人がそれなりにいる

更に、解説書を見ても適当に誤魔化している本ばかりで役に立たない(笑)

初見で挫折してしまったぜ!という人も、今更実はよくわかってないとか言い出せないぜ!という人も、ここで構造をざっくり理解しておこう。

作り方の概要

CSの内訳は

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)

に分かれている。

そして、営業CFは

  • 直接法(営業収入、仕入支出など項目別に収支がわかる)
  • 間接法(理論的に営業CFを導く方法)

の2つの作り方が認められている。

見る側からすると直接法の方がわかりやすいのだが、作る側からすると直接法で作るのは大変なので、世の中のほとんどのCSの営業CFは間接法により作られている。

間接法については直感的に理解し難いので、多くの人が悶絶することになる。

後半ではここを中心に解説する。

ちなみに投資活動と財務活動についてはどちらも直接法と間接法の選択適用はなく、どちらも直接法で作成することになる。

各表示区分のざっくりした内容

CSの内訳は営業CF、投資CF、財務CFだが、それらの中に更に「どういう活動によって増減したのか」を示す明細がある。

それが大体どういう内容なのかをざっくり学習しよう。

営業CF

基本的に会社の本業で獲得したCFを示す。但し、投資CFにも財務CFにも入らなかったCFが行き場所が無くて営業CFに混入するので、本業CF+ゴミ箱と考えればOKだ。

会社が本業の売上を通じて入ってきた収入、その売上原価(仕入・人件費・経費)の支出等がメインの内容になるが、上述の通り基本的に営業CFは間接法なので、営業収入がいくら、仕入支出がいくらなのかの内訳は表示されない

投資CF

投資と言われるとなんとなく株式とか債券とかを想像しがちだが、そういう金融投資のみならず、固定資産投資も含まれる

有価証券を買った支出、有価証券を売った収入、固定資産を買った収入、固定資産を売った収入等がメインで含まれる。

財務CF

資金調達による収入と支出が記載される。

会社の資金調達は借入(社債発行含む)か株式発行により行われるので、借入による収入、返済による支出、社債発行による収入、社債償還による支出、株式発行による収入等がメインの明細になる。

簡単な事例をざっくり見てみよう

めちゃくちゃ単純化した事例を作ったので、これで実際どうやって作るのかをざっくり見てみよう。

減価償却費の位置について通常は税引前当期純利益(税前利益)のすぐ下にあるが、説明の便宜のために位置を変えている。

なお、間接法の営業CFが悶絶するポイントであるため、今回はその部分の解説のみにとどめる。

計算のプロセスは2段階で、下記の通りだ。

  1. PLを逆流する
  2. 営業利益を営業CFに変換する

この②が非常に理解し難いので、しっかり考えてみよう。

①PLを逆流する

まず、間接法の営業CFを作るにあたって、税前利益をスタート地点として、営業利益を算出する。

これは簡単で、税前利益に特別損益項目と営業外損益項目について、逆流するのでプラマイ逆にして加減算するだけだ。

②営業利益を営業CFに変換する

ここが難しい。

営業利益というのは損益計算ベースであり、キャッシュの動きとは異なるので、営業利益を営業CFに変換する必要がある。

もう少し噛み砕いて言うと、もし債権・債務・減価償却費が存在せず、全てキャッシュで取引が行われてるのであれば、営業利益=営業CFとなるはずだ。

上記の例で言えば、PLの売上高1,000、売上原価400、販管費300が全てキャッシュで取引されていたならば、営業利益は300で営業CFも300になる。

しかし、現実世界では債権・債務・減価償却費が存在するため、損益とCFがズレてしまうのだ。

それらの項目について調整を行う。

この事例における「営業利益を営業CFに変換する」調整は下記の項目で行われている。

  • 売上債権減少額
  • 棚卸資産増加額
  • 仕入債務減少額
  • 減価償却費

これらについて1つずつ見ていこう。

売上債権減少額

売上債権は「減少」がキャッシュインフロー(CIF)、「増加」がキャッシュアウトフロー(COF)となる。

なんかイメージと逆だよな。これがどういう理屈なのかを考えてみよう。

売上が計上された時には「売掛金/売上」という仕訳が計上される。つまり、この時点ではキャッシュは動いていない。

いつCIFがあるかと言うと、売掛金が入金された時だ。

一方で営業利益の中には売上が全額収益として入っているので、何も調整しなければ売上=CIFという状態になっている(売上全額が入金された状況)。

そのため、売上全部が入金された状況をスタート地点にして、売掛金が増えた分は入金がなかったのでマイナス調整をし、売掛金が減った分は前期までに売り上げていて入金がなかったものが入金されてプラス調整をすることになる。

そして、売上によるCIFは前期の売上に係る売掛金のうち当期に入金された金額+当期の売上に係る売掛金のうち当期に入金された金額である。

そういうことで、「売上債権の増減額」を調整すれば、PLの売上を売上CIFに変換することができるのだ。

求めたいのは入金額!

上記の事例の場合は、PLの売上高は1,000だが、期首の売掛金が500が入金され、当期の売上のうち600が入金されているので、CIFは1,100である。

当期に売り上げたが入金されていない400については翌期以降に持ち越しになる。

棚卸資産増加額・仕入債務減少額

棚卸資産についても、売上債権と同様に「減少」がCIF、「増加」がCOFとなる。

仕入債務については、「増加」がCIF、「減少」がCOFになる。

ここが今回の学習の中で難易度がピークになる。

先ほどはPLの売上がCIFと一致しないよね、という話であったが、今度はPLの売上原価がCOFと一致しないよねという話だ。

仕入が行われたときには「仕入/買掛金」という仕訳が切られる。つまり、この時点ではキャッシュは動いていない。

いつCOFがあるかと言うと、買掛金の支払をした時だ。

一方で営業利益の中には売上原価分が費用として入っているので、何も調整しなければ売上原価=COFという状態になっている。

PLの売上を売上CIFに調整するにはPLの売上高とBSの売掛金だけをみれば良かったが、今度はより複雑になる。

スタート地点が売上原価なので、これを仕入によるCOFにするためには、

  • PLの売上原価をPLの仕入高に戻す(棚卸資産増減額)
  • PLの仕入高を仕入COFに変換する(仕入債務増減額)

という操作が必要になる。

棚卸資産があるため仕入=売上原価とならないので、もう1段階調整が増えてしまっているのだ。

求めたいのは支払額!

上記の事例の場合は、まず売上原価400を当期仕入高に戻すと500になる。

そして、当期仕入高に期首期末の買掛金の残高を調整することで買掛金支払額に変換する。これが仕入に係るCOFだ。

つまり、PLの売上原価-400をスタートとして棚卸資産増加額-100、仕入債務減少額-200を加味すると仕入に係るCOFに変換できるということだ。

減価償却費

もうヤマは越えたので安心してほしい。

減価償却費は「非資金損益項目」と呼ばれている。固定資産の減価償却によって発生するが、費用が発生するけどキャッシュアウトしてないよねということで、営業利益上は減価償却費分が費用として入っているので、同額を足し戻すことでキャッシュベースに戻すことができる。

なお、減価償却費はPLの売上原価と販売費及び一般管理費(販管費)の中に入っているが、上記の事例の場合はPL上に内訳が示されていないのでPLで金額を かくにんすることができない。

ここからは参考だが、なんでキャッシュアウトしない費用が出るんだよ!とイラついた人のために念のため減価償却の計算構造を解説しておく。

PL上は固定資産は取得時に一括費用処理をせず、使用期間に渡って事業活動による収益に対応して費用を計上して行こうぜ!という「費用収益対応の原則」という決まりに従って計算している。

減価償却の仕訳は「減価償却費/減価償却累計額」となり、BS上の固定資産の簿価は固定資産の取得価額と減価償却累計額のネットで表示されるという構造になっている。

一方でCS上は固定資産の取得時に「固定資産の取得支出」という投資CFが発生し、売却でもしない限りはそれっきりだ。

そのため、PLの営業利益をキャッシュベースに戻すためには減価償却費を足し戻すということになる。

まとめ

いかがだっただろうか。

勘定科目同士の繋がりが当然に頭の中に浮かぶようになるまではわかったような、わかっていないような状態が続くかもしれないが、丸暗記するのではなくて何度も理屈を思い出しているうちに「当たり前」に見えてくるようになるだろう。

とにかく、まずは間接法の営業CFの作り方のポイントと言われたら、

山田さん

税前利益を営業利益に戻して、営業CFに変換してるんだね!

と思っておこう。

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