暗号資産(仮想通貨)の会計処理・税務って今どうなってるの?

当該記事は執筆時点(2020/11/29)の状況をもとに記したものである。

仮想通貨の文言については、2020/5の資金決済法の改正により暗号資産という呼称に改められているため、以下において、基本的に暗号資産の表現を用いる。

目次

現行の会計・監査の枠組は以下の通り

作成者No.タイトル公表時期
ASBJ実務対応報告第38号 資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い2018/3
JICPA業種別委員会実務指針第55号仮想通貨交換業者における利用者財産の分別管理に係る合意された手続業務に関する実務指針2017/5
JICPA業種別委員会実務指針第61号仮想通貨交換業者の財務諸表監査に関する実務指針2018/6

上記のうち、会計処理について定めたものは1番上の実務対応報告38号のみで、後の2つは暗号資産交換業社、すなわち販売所・取引所が受ける必要があるAUP(合意された手続)・監査について定めている。

また、実務対応報告38号において定められた会計処理は、取得者の期末評価、交換業者の預り暗号資産、表示方法・注記と、断片的なものである。

ここで、実務対応報告第38号の26項を見てみよう。

26.…したがって、自己の発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)については、本実務対応報告の範囲から除外することとした。なお、自己の関係会社により仮想通貨の発行が行われる事例が見られるため、自己の関係会社が発行した仮想通貨(発行した時点においては仮想通貨に該当しないが、その後仮想通貨に該当することとなったものを含む。)も、本実務対応報告の範囲から除外することとした(第 3 項ただし書き参照)。

このように、発行者側の処理は完全に諦めているのだ。

つまり、ICOの会計処理や、ICOで集めた暗号資産の評価、ICOで売出の対象とならなかった自己発行暗号資産の評価、エアドロップなどについて、どう処理して良いのかは何も示されていない。

ICOって何だったっけ?

暗号資産の発行者についてイメージがつきにくいかもしれないが、発行者というのは○○コインを作った会社のことを指す。

自分で独自のブロックチェーンのプラットフォームを作り出さなくても、例えばイーサリアムというプラットフォーム上では誰でも簡単に「トークン」と呼ばれる暗号資産を発行することができる。

つまり、やろうと思えば日本中の会社が最も簡単に暗号資産を発行し、「発行者」となることができる。

そして、トークンは上場することでビットコインのように販売所・取引所において取引されるようになるのだ。

ちなみに、トークンというのはチケットのようなものだ。

1枚の大きな画用紙をチョキチョキと切ってチケットにして配っているイメージを持ってもらえれば良い。

切り刻んだ画用紙には、好きなように「何の券」なのかを書き込む。

それは、例えば「1回無料で食事をできる権利」であったり、「持っていることでサービスの割引を受け続けられる権利」であったり、「何も権利はないけど、みんなが価値があると思っていてお金のようなもの」であったりする。そのトークンがどういう機能を持つのかについては、自由に定めて良い。だからこそ会計上パターン化された基準を設けることが難しいのであろう。

もちろん切り刻んだだけの画用紙の券には価値はつかないので、トークンを発行しただけでは意味がない。

このトークンにはこんな価値があるんですよ!と知らしめて、みんながお金を出して欲しがるようにする必要がある。

みんなのその「欲しい」という思いは、「このトークンを先に買っておいたら安くサービスを受けられるはずだ」という思いや、「このプロジェクトは有望だから今後トークンの価格は値上がりするはずだ」という思いなどが想定される。

実務的にはホワイトペーパーと呼ばれる「企画書」にプロジェクトの内容やトークンの機能について記載し、それを自社サイトなどで公表することでトークンの価値を知ってもらうことになる。

それを踏まえてトークンを売り出すことがICO(Initial Coin Offering)と呼ばれている。

結果的に、ICOを行うことでプロジェクトの開発資金などを事前に調達できる

暗号資産の取引は投機的な側面ばかり目立つが、本来的には革新的なアイディアを持った人が、それを実現できるように事前に機動的にお金を集められるという画期的なファイナンス手段なのである。

コレは、既存のIPO(Initial Public Offering)という、ある程度成長した会社が厳格な審査・監査を受けて次の一歩を踏み出すためにようやく資金調達ができるという仕組みよりも合理的かもしれない。

確認可能な発行者の事例はメタップス1社のみ

国内の上場会社である株式会社メタップス(採用している会計基準はIFRS)の韓国の子会社であるMetapsPlusにおいて2017年にICOを行っており、概要については適時開示や有価証券報告書等で確認することができる。

当該ファイナンスの流れは、まずPlusCoin(PLC)という暗号資産を発行し、イーサを対価として資金調達を行なった。11.1百万PLC発行し、1イーサ=200PLCを基本レートとして発行総数のうち販売目的分についてICOを行なった。その結果、約10億円調達したと言われている。

その後、PLCのホワイトペーパーに記載した事業計画が事業環境と合わなくなってきたため、計画を修正した上でトークンの保有特典を変更したNPLCという新しいプラスコインに1:100の割合で交換を行なっている。

このような理由から、NPLCはPLCを置き換えるものとして発行されており、ファイナンスを行う目的を持って発行されたものではない。

PLCのICOの対価として受けたイーサは取得原価をもって無形資産として計上している。相手勘定は全額収益として計上するべきであるが、ホワイトペーパーに記載された義務の履行に応じて収益計上されるべきものであるから、繰延収益として計上された。

しかし、PLCのホワイトペーパーにおいては義務の履行期間等が明確でなかったため取崩しは行われておらず、保有特典の期限等が明示されたNPLCに交換されたのちに取崩しを行なっている。

また、自社発行の暗号資産(PLC,NPLC)についてはゼロ円評価の無形固定資産として計上している。これは、実質的には未発行であるという点や、売却の事業遂行上の制約の観点などから合理的と言えるだろう。

なお、メタップスはその後もICOコンサルティング事業など暗号資産関連の投資を継続するも、現在ではmiime事業を除いて暗号資産事業から撤退している。

ちなみにmiimeはNFT(ノンファンジブルトークン)のマーケットプレイスである。NFTというのは直訳すれば代替不可能トークンであり、発行されたトークンの1つ1つが固有の存在であるものである。

NFTが普及するきっかけとなったサービスとして有名な「CryptoKitties(クリプトキティズ)」というゲームがあるが、そこではゲーム内のキャラクターであるネコがNFTである。

上掲のネコは筆者のウォレット内に眠る在庫ネコたちである。

マーケットプレイスでネコを買ってきてネコとネコを配合すると、両親の特徴を引き継いだ子ネコが生まれてきて、親ネコも子ネコもそれぞれ再びマーケットプレイスで売却することができる。RMT(リアルマネートレーディング)と呼ばれているものと似ていて、要はゲームのデータを売買することができるのだ。ただし、NFTは特定のサービスに依存するものではないので、当該ゲーム内で利用していたトークンをまた別のゲームに持ち込めるという可能性についてもしばしば言及されている。

NFTはデジタルアセットと呼ばれており、利用される領域はゲームに限らず美術品など様々な方向性に広がっている。

税務の動向

税務においては2019/12に国税庁から公表された「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」というドキュメントが最新の見解である。

目次を一見してわかる通り、所得税・法人税・消費税などの各種の税目について基本的な取引の見解は示されているものの、会計同様に発行者側の処理については一切言及はなく、未整備な点が多いことがわかる。

なお、「22 仮想通貨の期末時価評価」については実務対応報告38号を参照して規定しており、会計側の出方を伺っているように見える。

また、所得税については暗号資産を売買するには足りるレベルにはルールが整備されているが、かなりイケてない税制になっている。

例えば、ある暗号資産から他の暗号資産に持ち替えることで乗り換え前の暗号資産を売却したと考え、取得価額との差額を損益として処理しなくてはならないという点は多くの人の直感に反するだろう。

例えばビットコインでリップルを購入したケースを考えてみよう。

安いところで仕込んだビットコインでリップルを買ったとする。リップルに交換する時点でビットコインの含み益が実現し、たくさんのリップルを購入することができた。その後、不幸にもリップルがあっという間に暴落し、実現したビットコインの含み益を大幅に下回る評価額になってしまった。リップルが取得価額に戻るまでは持っておきたいと考え、塩漬けにしたまま年末を迎えた。

この場合、ビットコインの含み益は実現し、リップルの含み損は実現していないため、キャッシュは1円も入ってきていないし、全体で見れば損しているのに課税されるという納得できない状況に陥る。

また、ビックカメラなどでは決済手段としての利用もできるようになったが、これも買い物をしたところで暗号資産を売却したことになる。

つまり、例えばビックカメラで冷蔵庫を買ったら含み益が実現して課税されるという意味がわからない状況に陥る。これは暗号資産の貨幣としての機能を完全に無視した課税と言えよう。

さらに、未だに雑所得扱いで総合課税という点も暗号資産の普及を阻害していることは間違い無いだろう。これについては一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)と日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が一般的な金融商品と同等の税制に変更することを税制改正の要望書にまとめて与党に提出する動きがある。

現行の扱い難い税制が早く是正されることが望まれる。

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