注意点
以下の記述は筆者の見解であり、その内容を保証するものではなく、更に規制当局や取引所の対応を保証するものでもない。
どんな事件が起こったのか
コインチェック(Coincheck)事件などで世間を騒がせたNEMであるが、2021年3月15日に大幅なバージョンアップをしたSymbol(シンボル)が誕生する。
今までNIS1(一般にNEMと言われているブロックチェーン)の通貨であるxemを保有していたい人は、オプトインと呼ばれる意思表明をすることで、保有量に応じてSymbolの通貨であるzymを入手することができる。
Zaifは顧客資産であるNEMについてオプトインを行っており、誰もが顧客は付与時期にxymを入手することができるという理解であった。
そんな中、Zaifは2021年3月5日に突然以下の案内文をリリースした。

単純にSymbolローンチに際する出金停止の案内であるものと筆者は理解していたが、以下の記載に判断の余地があるとのことで大混乱となった。
なお、Zaif ExchangeではNEM(XEM)のオプトインは実施済みですが、Symbol(XYM)の配布及びその方法の詳細については検討中であり確定していません。
Zaifがオプトインまで行っている以上、この文章を素直に読むと、「xymの配布の詳細、方法の詳細について検討中である」と読めるが、「xymの配布の有無と、xymを配布する場合はその詳細について検討中である」とも読めるとのことであるという。
このリリースから出金期限まで4日しかないまま上記の解釈論がチャットを中心に繰り広げられ、これ以上の公式な意見表明がないままZaifだけxemの価格が暴落し、Zaifからのxemの出金が加速した。
そしてxemの出金期限は執筆時現在で既に超過している。
XYMは付与されるのか
上記の案内を読んだユーザーは不安を抱いたかもしれないが、筆者は当然xymは配布されると考えている。
最悪の場合でも相当価格が金銭的対価として得られることになるだろう。
なぜ楽観的であるかというと、下記のような理由による。
XYMはXEMの価値を継承すると考えられるため
SymbolはかつてNEMの「カタパルト」と呼ばれていたバージョンアップである。
当該バージョンアップに伴い新しいチェーンがローンチされ、当該チェーンのネイティブトークンであるxymをNIS1のネイティブトークンであるxemの保有量に応じて(1:1の割合)エアドロップを受けることができるというものである。
NIS1とSymbolはユースケースが異なるため、NIS1についても今後も開発を進めてゆくとのことではあるが、NIS1は以下の記事で「開発者のサンドボックスとして機能」とあるため、本番環境としての位置づけではないものと考えられる。
つまり、当該エアドロップはNEMで保有していたxemの価値を継承するものであると考えられる。
これは、コミュニティ運営の方針の見解の相違に伴うハードフォークやプロモーション目的のエアドロップとは訳が違う。
現実世界でダイヤモンドの指輪を預けたのにダイヤモンドを抜かれて返されるという行為が起こりえないことと同様に、xymが付与されないということは現実的ではない。
Zaifはオプトインしている
xemの保有残高に応じたxymを入手するための手続を「オプトイン」と呼び、Zaifは当該行為を顧客を代理して行なっている。
Zaifがオプトインを行い、スナップショット日の前後で出金制限を行うため、Zaifにxymが入ってくる事は確定している。
反対に言えば、スナップショット日から鑑みてもかなり前倒しでxemの出金停止措置を行っており、顧客が自らスナップショットを受ける権利を剥奪していることになる。
また、取引所は会社資産と顧客資産を分別管理しなければならないので、各アカウントに紐づいた資産として管理しているため、Zaifが預かっているxymは顧客資産である。
つまり、xymが付与されない場合はバージョンアップに伴い顧客は預かり資産を詐取されるという実態となるため、付与そのものについてのリスクは倒産可能性などの信用リスクを除いては限定的と言えるであろう。
リリースから出金停止まで4日間(2日間)しかなかった
仮に適法性の議論は別にして2021年3月5日の案内が突然の方針転換により顧客のxymはZaif保有となるという案内であったとするならば、出金停止が2021年3月8日であるため、リリース日を含めたとしても4日しかなかった。営業日ベースでは2日である。
このような超短期的な期間を顧客の判断の期間として設定するようなことは明らかに不当であるため、このリリースによる出金可能期間の案内は顧客資産の毀損にかかる重大な判断のために用意された期間でないことは明白である。
ZaifとNEMの関係
Zaifはかつてテックビューロという会社が運営しており、NEMのプライベートチェーン製品であるmijinや、NEMとイーサリアム(Ethereum)を基盤としたICOプラットフォームであるCOMSAを開発していた。なお、mijinとNEMは技術提携関係にあった。
また、当時の代表取締役である朝山貴生氏はDirector of NEM Japanに就任している。
その後、テックビューロはXEMの流出事件を受けて立ち行かなくなり、フィスコ仮想通貨取引所にZaif事業を事業譲渡したという経緯がある。
このようにZaifは歴史的に非常にNEM色が強い取引所であり、破綻してもなお未だにxemの取扱高世界一であるこの取引所である。
この取引所においてまさかカタパルトと呼んでいたころから何年もかけて実現に至ったバージョンアップ、すなわちSymbolに対応しないということはあり得ないだろう。
以前に付与することを明言している
2019/10/17における以下のリリースで、Zaifはxymの配布を明言している。

2020年1QにNEMの技術アップデート「Catapult」が予定されております。本アップデートでは、NEMのネットワークが新設されることとなります。伴いまして、新しいトークンとして”Catapult トークン”が発生する予定となります。
“Catapult トークン”については、アップデート当日のXEMの保有残高に応じて同数量の付与を受ける権利が発生いたします。当社としては、お客様のXEMの保有数量に応じてお客様のアカウントに”Catapult トークン”をお渡しさせていただきます。
直近のリリースにおける表現は不明瞭になってはいるものの、このように過去のリリースにおいて付与を行う旨を明言している。
これについて方針転換があればオプトインの事前に通知しているはずであるため、上記の方針の通りに配布は行われることだろう。
なぜXYMを付与すると明確に言えないのか
では、何故今の時点でxymを付与すると明言することができないのだろうか。
日本の暗号資産にかかる法令や業界団体(JVCEA)の規制は厳しく、有価証券のような厳格な運用が行われている。
そのため取引所で取り扱うまでの手続が煩雑かつ時間を要するため、新しいチェーンがローンチされたからと言ってすぐに取り扱いを開始することができない。
バイナンスの銘柄数と比較してみればすぐにわかるが、日本は金融庁やJVCEAが厳格に審査した結果、取引所に上場できる銘柄数は著しく絞り込まれている。
それだけ厳選したうえで日本の取引所で上場しているNEMのバージョンアップには当然対応できるはずである。前述のとおり、ましてやカタパルトと呼ばれていたころから数年越しの話である。
その前提であるものの、想像しづらいが最悪な状況として例えば関係者の想像力に衝撃的な欠陥があるなどの理由によりSymbolが取り扱いされなかったとしよう。
この場合も、前述のように顧客資産の著しい既存が想像されるため、最悪でも金銭的対価として付与されることになるだろう。
その場合は付与時点の取引開始前の金額(0円)ではなく、一定期間の価格の平均値などを使用して求められることとなると考えられる。
XYMは付与されるはずなのに、何故価格が乖離するのか?
仮にxemからxymに価値移転するものであり、国内取引所では付与されないのであれば、Zaifで出金ロックされたxemの価格はこの程度の乖離ではなく、ゼロ水準近くまで暴落するはずだ。
そうなっていない点からも配布は行われるものと解されるが、それではなぜ価格が乖離するのだろうか。
10円~20円程度の乖離を続けている理由は、おそらく日本の取引所でxymを入手する場合、実質的なロックアップを受けることによるディスカウントであろう。
Symbolがローンチされても日本の取引所からの付与を受ける人は取引所の体制が整ってからになるため、その期間はxymの取引を行うことができない。
そのため、実質的にxymにロックアップがかかっているのだ。
当該期間に渡って取引ができないという不自由の分、出金ロックのかかったxymの価値は低い。
そのxymを自由に処分できる権利が10円~20円なのであろう。
そういう観点では、日本の取引所に預けておくということは明らかに不利であったと言えよう。
続報(2021年3月11日加筆)
2021年3月11日にZaifから続報が発表された。

なお、Zaif ExchangeではNEM(XEM)のオプトインは既に実施済みですが、Symbol(XYM)の配布及びその方法の詳細については、必要な法令上の手続きが完了次第公表させていただきます。
zymの配布に関する疑義があった記載は上記のように修正されている。
散々批判が上がった結果の対応であると思われるが、必要な手続が完了し次第行われるという記載となった。
つまり、ユーザーが最も不安に感じていたxymが配布されないという疑念は払拭されたものと推察される。
しかし、この問題を受けてなのか利益確定売りなのか海外も追随して価格は下落しており、執筆時点でバイナンスでは0.58USD(米ドル)まで価格が下落し、Zaifは49円と価格の乖離は埋まっていない。
xemの市場価格全体の下落の原因がZaifの当該問題に端を発したかどうかの判断はすることはできないが、Symbolローンチ前に価格が大幅に下落するという残念な状態になっている。
また、2022年3月11日18時をもってコインチェックもxemの送金停止となっているが、64円とZaifの価格を大幅に上回っているため、価格乖離についてはxymロックアップにかかるディスカウントでは説明できない状態に陥っており、現時点の価格差は不信感等の何らかのZaif固有の問題によるものと推察される.
このようにここまでは色々と残念な結果になってはいるものの、筆者はZaifおよびSymbolの今後の発展に期待しており、今後もZaifでxem,xymを持ちづづけてゆきたいと考えている。
(補論)XEMはもう無価値なのか?
NIS1のロードマップにおいて爆発的にユーザーが増えそうな項目も見当たらないため、ここからxemの価格が成長してゆく絵は想像し難い。
では、無価値かといえばそうではないだろう。
xemは通貨としての機能が高く、その点での価値が高いと考えられる。
日本人ユーザーは一般的なルートとして円をZaifやコインチェックなどの日本のCEX(Centralized Exchange , 集権型取引所)で暗号資産に交換し、それをウォレットや海外取引所に送金する流れになる。
その際にxemはイーサリアムのネイティブトークンであるイーサよりも遥かに安く送金することができる。
また、NIS1の歴史は長く、世界中の様々な取引所が取り扱っているため、別の暗号資産への変換を繰り返しながら送金する必要もない。
なお、システムの停止やハッキングも一度もないとのことであるから信頼度も高い(以下のデイビット・ショー氏の取材記事参照)。

更に、暴落したとは言え、依然としてなお相当規模の水準の時価総額を保っていることも信頼度を担保するだろう。
このように、貨幣としての機能だけを見ても、十分な価値があるものと考えられる。
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